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最高裁判所第三小法廷 昭和31年(あ)777号 判決 1956年10月09日

本籍並びに住居

福島県大沼郡会津高田町大字杉原九一番地

酒造業

千葉為吉

明治二四年一〇月二五日生

右の者に対する公職選挙法違反被告事件について昭和三一年一月二六日仙台高等裁判所の言渡した判決に対し被告人から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人岩崎光衛の上告趣意第二点中理由不備の論旨について考えるに、原判決は、事実誤認の部において、被告人が判示佐藤吉郎より受領した二万円は法定選挙費用と投票買収資金とを一括しそのいずれの部分が費用でいずれの部分が買収資金であるかの区別できない関係において手交されたものであると認定し(挙示の証拠によればその認定は相当である)、それゆえその全額に受供与罪が成立する旨を判示しながら、後段追徴の点において、被告人がその内さらに判示木村重成に供与した残りの一万円の内から、すでに選挙ポスター貼りに要した労務者の日当として千八百円を支出したことを認め従つて右千八百円についてはこれを追徴すべきものではない旨説示したこと、そして、この説示は前示のように被告人が不可分の関係において供与を受けたと認定した金員の一部を可分のものと解した理由不備若くはくいちがいの違法があるものであることと所論のとおりであつて、右前段事実認定の部で不可分の関係の金員と認定した以上、原判決としては右千八百円についても追徴すべきものであつた。けれども、被告人からなお右千八百円を追徴しなかつたことの違法を主張する論旨は、被告人のためには不利益な主張であるから上告適法の理由とならない。

同弁護人の上告趣意のその余の点は単なる事実誤認及び量刑不当の主張に過ぎず刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 島保 裁判官 小林俊三)

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